かわいくて、楽しいもの | 安藤 僚子

今は東京をベースにお仕事をされていますが、東京に居るときと地方とでは、活動するときの意識の違いはありますか?あるいは、得られるものが違う、とか。

えーと、そうですね…求められるものが若干違う、というか。東京はやっぱり、大きい会社があったり、デザイナーも沢山居るし、仕事も沢山あるなかで、話題づくりというか、精度を求められるんですよ。「こんな感じでいいよね」みたいに、ゆるーくできなくて。それって、周りにいっぱいデザインがあるから、デザインが飽和している中で、何を生み出していくか?みたいな…どういうデザイナーが、どういう思想で、どういうデザインをしていくか?みたいなところがあって。

でも地方って、もうちょっとそこがほんわかしているというか、穏やかで。デザインのクオリティの高さとか、話題性とか、先端性とか…そういうことよりも、もうちょっと自分の暮らしとデザインがどんな風にフィットするか?みたいな、「私の生活のなかでこのデザインをどのように楽しめていけるかな?」というようなことを望まれている感じがあって。

だから、精度を費やすという部分よりも、自分のデザインが多くの人に楽しんでもらえるな…というところを意識する、というか。こっちも「かっこいいものを作るぞ!」というようなマインドではなくて、「みんなどんな生活をしているのかな?」「どんな空間が嬉しいのかな?」という意識でいくという。そういう感じはあるかな…でも、そのぐらいですかね。基本的にはそんなに、自分の中でやっていることだから。でも、あるとしたら、いま具体的に思いつくのは、そういうところですね。

今回山口へ来られているのも、ここの人の暮らしとか、ここの人が望んでいるものとか、そういうもののヒントを掴みたいという思いもあって来られているんですか?

そうですね。12年ぐらいインテリアの仕事をやっていて、”東京でデザインする”ということに慣れすぎちゃっているんです。精度を上げていくという、それが当たり前と思っていたんですけど、旅行で色々な地方に行って、その地方の当たり前を知る…という。

だから、東京の当たり前が自分の今の生活だけど、それは”特別”で当たり前ではなくて、色々な当たり前が世の中にはある、ということを知っていったときに、地方の”当たり前”に、自分が武器として考えていたデザインというものを、どういう風に提供できるのかな?ということを考えたんですね。

東京の仕事は、やっぱり企業の仕事が多いので、企業が利益を上げるためにデザインをすることが多くて。でも、デザインは別にお金儲けをするためだけにある訳ではないので、地方の人の生活を豊かにするということのために、自分の武器が提供できるんじゃないかな?ということにトライしたかったというのはありますね。今回もそういうところがあったから、メディアアートの最先端を私が目指せる訳ではないんですけど、自分の出来ることとちょっと重なるかも、と思って応募しました。

なるほど、「生活を豊かにする」。

そうですね。東京でやっている仕事は、どちらかというと「消費を促す」みたいな方向性のデザインを求められるから、ちょっと自分のデザインの使い方というのを、違う方面でも試せるかな?というのは思っています。どっちも好きなんですけどね。

スキルや技術って、ともすれば「お金になるかならないか」で選別される部分ってありますけど、自分の得意なことを活かせる分野は、お金儲け以外にもありますよね。

そうですね。お金を儲けることってすごく大切なことだから、地方に住んでいようが東京に住んでいようがお金は必要なので、お金儲けをすることが嫌ではないんですけど、今抱えている企業さんとのお仕事の中では、なかなか生活面に自分のデザインを照らし合わせる機会が少なかったな、と思っていて。自分のデザインが、お金儲け以外の、生活を豊かにするというようなところに使われる…ということを真剣に考えたいなと。

なるほど、そういう思いの一環として、今回の「スポーツタイムマシン」があるということで…今はまだ、どういうかたちで実現するかというのは見えていないと思うんですけど…(笑)

どうしよう(笑) それ本当に問題なんですけど…色々な人と話していて、昨日(5月12日)あたりから、だんだん方向性が固まり始めてきて、だんだん笑えなくなってきて、犬飼(博士)さんと「山口に来る新幹線の中は気楽だったよね…」って(笑)

(笑) やらなければいけないことが、だんだん具体的になってきた感じですか?

そうそう(笑) まあでも、やるんですよ。何とかして。とにかく多くの山口の人に会って話をする…ということを、この4日間やっているんですけど、たった4日分ですけど市内の色々なところを見て、色々な人に会ったという情報を、私と犬飼さんとでぶわーっと組み立てていくという作業を、たぶん帰りの新幹線の中からやるんですよ。

犬飼さんはシステムの仕組みをぶわーっと考え出すし、私は空間にどう落とし込むかをぶわーっと考え出すし、同時にお金をどうやって集めるか?をお互い手分けして考えて…ということを、あまり時間を掛けずにやるんですね。

で、仕組みが作れたら、出会った山口の人たちに、どういう風に関わってもらうかが見えれば、やれば速いと思うんですけど、まだ風呂敷を広げている段階なので…まあ、何とかすると思います(笑)