緊張感 | 原田 佳代子

学生の頃は、なにか取り組んでいらっしゃいましたか?

そんなに言えるほどのことはしてないのですが、中学校時代は吹奏楽をしていました。高校は下関だったので、宇部から下関まで片道一時間半ぐらい掛かって、通うことに一生懸命で部活などはしていませんでした。

そうなんですね。学生の頃は、どういう大人になりたいな、というようなイメージはありましたか?

中学のときから英語が好きで、高校時代は夏休みに短期留学をさせてもらったりとか…

どちらにいらっしゃったんですか?

オーストラリアとニュージーランドへ。その後も英語関係の学校に進学したので、学生時代は海外へ行くことが本当に楽しみで。よく海外旅行もしていましたし。それがまた、今こういう和文化というものに興味をもつきっかけにもなっているんですけど。

なるほど、一度外から日本を見て。

そうですね。一番きっかけになったのは、オーストラリアを旅行中に、すごく日本が大好きな日本通の方に、あれこれ質問をされて。「うちは呉服屋だ」と言うと、着物のことを訊かれたり、「着付けを習いに行く」と言うと、「日本人なのになんで習いに行かないといけないのか?」とか「日本人なのにどうして着れないのか?」とか「どんな種類があるのか?」とか、とにかく色々なことを訊かれて。そのときは知識がなかったので、ほとんど答えることができなくて…そしたらまたそれに対して「なぜ答えることができないのか?」と(笑)

とにかく色々なことを訊かれて、答えられないことがすごく情けないというか。逆にこちらが質問をすると、相手は自分の国のことをよく理解したうえで、「日本はこう素晴らしい」という話をされるので、本当に情けなくなって…海外のことばかりに目を向けていたんですけど、日本にも素晴らしいことが沢山あるのに、私は何も知らずに海外ばかりを見ていたな…と思いまして。それが結構今に繋がる出来事かな、と思いますね。

それが学生の頃のお話ですね。学校を卒業されて、すぐにご実家のお仕事をされたわけではないんですよね。

まったく。大阪にずっと住んでいまして、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で、オープニングスタッフとして働きました。

オープニングスタッフだったんですね。

はい、ちょうどオープンする前でした。なので、パークもまだ工事中で、ヘルメットを被って安全靴を履いて、まだ誰もいないアトラクションの中で、試験運転みたいなことをやっていまして。で、そこからプレビューで初めてお客様をお迎えして、グランドオープンを迎えて・・・という過程を、ずっとスタッフとして働いていました。

USJに入ろうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?

テーマパークで働きたい、というような想いはあったんですけど、やっぱり外国のお客様も多いだろうから、今まで勉強してきた英語も活かせるかな、というのが大きな理由ですね。ただ、そこでは別に何をしたい、というような具体的なものはなくて。むしろ私は、アトラクションで働くよりはエントランスとかで働きたいな…と最初は思っていて、アトラクションは第二希望にしていたんですけど、たまたま配属がアトラクションになりまして。

そのときは全然、人前で喋るというようなことはしたことがなかったんですけど、私たちが一番最初のスタッフだったので、次から新しいスタッフが来たら、見本のショーをしないといけなくて。で、見本のショーをしていると、その中に元MCをやっていたという方が居たんですね。その方は、もうMCとしてバリバリお仕事をされて、趣味としてUSJで働こうと思って来られたような方だったんですけど。その方に「あなたは何かしているの?」と訊かれて、「全然喋りの勉強なんかしたことないです」と言ったら、「絶対に向いているから、何かやったほうがいい」と言われて。その彼女の一言がなかったら、この仕事にはまず就いていなかったと思うんです。

ほう。

で、そういう風にいわれて、そのときは全然興味がなかったんですけど、USJで自分が新しいスタッフのトレーニングをする立場になったときに、結構大きな声を出して仕事をすることが多かったので、みんな次々に喉を潰してですね。私も何度も喉を潰したんですけど…大声を張り上げたりとか、声の出し方も分からずにむやみやたらと叫んでいたところがあったので…ちょっと喋り方を勉強したら、トレーニングに活かせるんじゃないか?というぐらいの気持ちで、大阪のMC養成所に通い始めたんですね。それは週に一回の”習い事”というような感じで始めたんですけど、それがすごく楽しくなってきて。

USJというのは、いつ誰のショーを見ても同じクオリティでなければならない、というような感じだったんですけど、MCというのは自分の個性だったり、自分らしく表現をすることもできる仕事なので、”声を出す” ”人前で喋る”という仕事を通して、もう少し自分らしく仕事が出来たらいいな、という気持ちもあって、そちらの道に進んでいこうかな、という気持ちになりました。

なるほど。

あとは、私はUSJで2年働いていたんですけど…最初は何もかもが初めてで、色々なことを自分達で新しく決めていったり、作っていったりしていたのが、2年ぐらい経つとある程度マニュアル化されて、色々なことが決まっていったので…もうこれ以上はいいかな、という気持ちもあったので、今勉強しているMCをやっていこう、と思いまして。

そうなんですね。ちょっと話を遡って…USJのようなテーマパークで働きたい、と思っていらっしゃったのは、子供の頃からそういったところがお好きで、通っていらっしゃったんですか?

いえいえ、とんでもないです。通うどころか、子供の頃ディズニーランドに2回行ったことがあるぐらいなんですけど、すごく楽しかった!という思いがあって。あんな規模のテーマパークが、今後日本に出来ることもないだろうなというのもあったので、当時自分が住んでいた大阪にUSJが出来るということを知ったときに、これは絶対に働きたいな、と思いました。まあ、「夢だった」というわけでもないんですけど。

ちょうどそういうタイミングに…

そうですね、そういうタイミングに大阪に居たので…ということですね。まあ、テーマパークが出来上がっていく過程を見ることができたというのは、今となっては貴重な体験だったな、と思います。

確かに。なかなかそんな経験は出来ないですよね。

そうですね。あの規模となると、この先日本にいつ出来るかも分からないですし、現在のように山口に住んでいたら働くこともなかったでしょうしね。

そこでまた、MCの仕事に導いてくれた人に会って。

そうですね。その方のその一言がなければ、こういう職業があるということも分かりませんでしたし、自分が向いているだなんて、とてもそのときは思っていなかったので。