慎重になり過ぎない | 山城 麻衣

(笑) 8月に企画されている「音の輪~アンサンブルコンサート~」には、とても思い入れがあるそうですね。

そうですね。田中雅弘先生が、防府市出身なんですけど、今は東京交響楽団の首席チェロ奏者の方で、毎年アンサンブルのセミナーをやっていらっしゃって、それをもう4~5年受講しているんです。それまではソロや伴奏が多くて、アンサンブルはちゃんと勉強したことがなかったので、近くであるということで4~5年前に参加してから、アンサンブルがすごく楽しくなって。伴奏をするという面でも勉強になることがあるので、そっちのほうもやっていけたらいいなと思って、毎年受講しているんですけど。

そのつながりですよね、(チラシを見ながら)ヴァイオリンの城田さんはセミナーで知り合った人です。なかなか山口県に居て、ヴァイオリンの方と知り合うということがなかったので…城田さんと一緒に演奏会をしようということになって、チェロを色々と探していたんですけど、田中先生がやってくださるということになって…本当に恐れ多いんですけど、まさか先生と一緒に演奏出来るという機会があるとは思っていなかったので。なので、先生と一緒に演奏するのは初めてなんですけど、すごく楽しみなんです。

アンサンブルの面白さは、どういうところにあるんですか?

なんですかね。うーん…まあ、ピアノはずっと一人だったので。合唱を始めたのも、みんなで音楽の楽しさを味わいたいという思いが、結構強かったんですよ。ずっと一人でステージに出て、一人で弾いて…ということだったので。他の楽器の人たちは、オーケストラとかがあるので、人と合わせる楽しさを知っていたというのが、すごく羨ましくて。

なので、アンサンブルは…特に今回のようなトリオは、それぞれがそれぞれ独立して、技術的にもすごく高いものが求められるけど、でもそれを出しつつ、3人のハーモニーの響きとか、チェロの動き、ヴァイオリンの動きを聴きながら、伴奏のときもありますし、私が出ていくときもあれば、3人が出ていってすごく綺麗なハーモニーになるという場面もあるので、そういう面白さはピアノだけでは味わえないですね。そこが面白いです。あと、その人の音楽をするときの息づかいとか、同じ曲をやっても違う人と組むと全然違うので、そこがぴったり合ったときにすごく楽しいですね。

それがここ4~5年で見つけた面白さなんですね。

そうですね。まあ、一年に一回しかないんですけど、それがやっぱり面白いですね。あとは、二人で演奏というのは、歌やフルートの伴奏などがありますけど、そういうのもアンサンブルをちゃんと教えて頂くと変わりますね。元々、伴奏が好きだったというのもあって、アンサンブルが楽しそうだと思って始めたんです。

ピアノを弾くうえで、ソロと伴奏とアンサンブルと、それぞれ違うと思うんですけど、一番しっくり来るのはどれでしょうか?

なんですかね…まだしっくり来るというほど、アンサンブルに関しては出来てないと思うんですよね。本当に、一年に3日間しかやっていなかったので。で、大体いつも同じメンバーで合わせていることが多いので。だから、アンサンブルに関しては「新しくて面白い」という感じですね。ピアノソロは、弾きたい曲がまだまだいっぱいあるので、そういう曲を弾いて…聴いて「いいな」と思った曲を自分で弾いて、人に聴いてもらうというのは面白いですね。だから、しっくり来るのが何かと言われると、うーん。

そうか、それぞれやってきた年数も経験も違うから、単純に比較が出来ないんですね。

そうですね。でも、やっぱり人とやるというのは面白いですね。卒業してからは、合唱部の伴奏もずっとやらせて頂いていたんですけど、それはまた一対一とは違って、また面白いですし。自分が弾いて「歌いやすかった」とか「先生がこう来るから、すごく歌いやすい」と言われると、嬉しいです。やっぱりピアノって…合唱の伴奏とか特に、歌に合わせるという風に思われていることも多いんですけど…でも、そうじゃなくて、ピアノも主体、歌も主体、だから面白いというところが絶対にあるので。

だから「ピアノがこうやって来たい、そこに乗っかって」という指導をしてくれる先生のもとで、合唱の伴奏をするのはすごく面白いです。だけど、やっぱり「ピアノは合わせて」と言われるとストレスになるし、「いやでも、ここのピアノはここをこうやっていきたいから、こういう風に作っているんじゃない」と思うけど、そういうのが分かっていて、そういうところが合う先生の伴奏は本当に面白いです。

そうか、合唱というと歌がメインと思いがちだけど、両方メインなんですね。

そうですね。もちろん、完全にピアノは伴奏という曲もありますけど、結構ピアノが複雑に作ってある合唱曲って多くて、そういうのを演奏するときには、ピアノも効果があって、歌も入る、という…そこが楽しい。

伴奏にしても、アンサンブル的な要素を楽しまれているみたいですね。

伴奏をするようになってからですね、そういう欲が出てきたのは。それまでは、高校のときはそれほど伴奏してきてないんですけど、でもやっぱり歌がメインでそれに付いていって、という感じにしか捉えられていなかったんですけど…”伴奏”って言うからダメなんでしょうね。

なるほど、確かに。お話を伺いながら、山城さんはソロで前面に出るタイプ、裏方に徹するタイプ、どちらなのかなと考えていたんですけど、ちょうど間ぐらいのスタンスなのかなと思いました。

あーそうですね。どっちが向いているとか、自分も分かってなかったですけど。伴奏が向いているとかも、自分で演奏しているぶんには分からなかったですけど…次に話が来るかどうか、というのはやっぱり心配で。やっぱり「合わない」と思われたら、絶対次はないですから。

でも、それが一緒にやっていきたいという人と色々知り合って、「歌いやすい」とか「吹きやすい」とか言われると、自信も出てきて「ああやってみよう」「こうやってみよう」と色々と思うようになって、それがやっぱり楽しいし、それで伴奏とかアンサンブルも好きなんだな、と思って。

それは普通の人間関係にも似てますね。出過ぎても嫌われるし、引っ込みすぎてもストレスだし。その辺は、演奏を離れてもアンサンブルと同じようなスタンスなんですか?

ああ、そうなんでしょうね、きっと。あまり中心になって喋るタイプではないし、かといってずっと喋らないタイプでもないし。本当に人付き合いで苦労をしたことはないので。でも、一緒に演奏するとなると…変わってると言われることが何度かあって。

演奏するときにですか。

そうです。だから、主張が強いんだと思います。「こうやりたい」ということを結構言うので。それは、すごくキャリアが上の人と一緒にやるときにも、やっぱり「こうやりたい」という思いがあって、それは自分もその音楽を作る一員なんだから、私はこう思うからこう弾いているけど、それじゃダメですか?ということを訊きたいので。それでなんか、変わってると言われることが(笑)

それはご自分の演奏に関してなんですか?他の人に「こう弾いて欲しい」とオーダーすることもあるんですか?

うーん、「こう来ると思ってたんですけど」とかいうのは、ありますね(笑) 「僕はこうやって思ってこう弾いたんだけど」とか言われたら「いや、私はこう思って弾いたんですけど、どっちがいいでしょうか?」みたいな感じで。

そういうところは、うやむやにせずに。

なんか、納得できないので(笑)

(笑) そういうところをちゃんと言っていった結果、気持ち良く演奏が出来るんですね。

そうですね。それでダメだったら合わないから、一緒には演奏していけないかな、と思いますね。まあ、私は教育のほうに行きましたけど、本当にずっと音楽しかやっていない人たちって”強い”ですからね。そういう人たちに圧倒されることはありますけど。

でも、ピアノの先生から「演奏が真面目すぎる」と、ずっと言われてきたんですけど…「優等生の演奏だ」と、ずっと言われてきて。そこが本当に自分の足りないところというのは、ずっと思っていて。そこをずっと克服したいし、人の演奏を聴いても「この人のこういう演奏がすごく良くて、自分には足りないな」とすごく思うけど、じゃあ何でか?と言われたら、やっぱりよく分からないところがあるので、そこをずっと追求していくということだと思うんですけど…そこが、自分ひとりで弾いていると、たぶんまとめたくなってしまうんですよ。

まとめたくなる。

そう、綺麗にまとめたくなるタイプだと思うんですよ。でも、人が居ると、”ここ”だけには留まれないから、そういう人たちと一緒に演奏して、すごく必死でついていって大変だけど、そういうところでもちょっとずつ勉強出来ているかな、と思います。ああ、こんな風に自由なんだな、とか。でも、雰囲気だけに流されていないというか。

いつも「楽譜にこうやって書いてあるんだから、こうやって弾けばいいのに、なんでそれをまとめるの?」みたいに言われていたんですけど(笑) 楽譜をもっとちゃんと読み込みなさい、みたいに言われていたんですけど、そういうところが、他の楽器が入ると、他の楽器がこうやって来たいから、だからピアノもこう来るというのが、ソロよりちょっと分かりやすいのはあるかも知れないですね。だから、それをソロにも活かせていけたらいいな、と思っているんですけど。

そこは、単純に弾ける弾けないというところを、クリアした先の話ですね。

それを並行してやっていけると、一番いいんだと思うんですけどね。でもやっぱり、小さい頃からコンクールに出て、きちんと弾くということを先にやってしまったので、なかなかそこから抜け出せないところがあって。まあ、それはたぶん、性格もすごく関係していると思うんですけど。まあ、羨ましいけど、そうじゃないからこそ良いところもあると思っているので(笑)

うんうん、そうですよね。きっちり弾くことが、個性に繋がるという考え方もありますね。

そうですね。だから、自分はそういうタイプだから、こういうところを伸ばしていきたいというものがあるので、そこを伸ばしていければ、自分の元々の良さも活かせるのかな、とは思いますけどね。

そこはまだ模索中。

そうですね…ずっと、でしょうね。

ずっと。そうですよね。

自分では、すごくやってる、すごく自由にやってるのに、「もっとやっていいよ」と言われたりするので、そこは自分の中では、全然足りてないんじゃないかな、と思いますね。そうですね…情熱的な感じがないんでしょうね。淡々と…という感じがあるんだと思います。「長女の演奏ね」と、言われてました(笑)

(笑) 演奏中に感情が高ぶることはありますか?

ありますね。本番って、大体いつもの6~7割しか出ないと言われますけど、でもやっぱり人が聴いてくれているというのは…元々人に聴いて欲しくてやっているので、「聴いて!」って思って高まることは、もちろんありますし、本番が一番良かったという経験もありますし。やっぱり、聴いていただけるからこそ、ですよね。演奏家としては。聴いてくれる人が居ないと、何もならないですからね。

一人で弾いていても何もならない。お客様が居てこそ。

そうですね。みんなが良かった、というのは難しいと思うんですけど、一人でも「すごく感動した!」と言ってくれる人が居たら、やって良かったな、と思いますよね。それが聞きたくて、それを感じて欲しくて、やっています。で、それがきっかけで、「50歳だけどピアノをやりたいな」と思ってくれたり、ピアノじゃなくても「音楽をやりたいな」と思ってくれたり、「クラシックがいいな」と思ってくれたら嬉しいですね。

ご自分が好きな音楽や楽器に興味を持ってもらいたい。

そうですね。すごく豊かになると思うので、音楽をやるということは。なんですかね・・・”表現する”ってことは、普段の生活の中では、なかなかないですよね。音楽で表現したい、と思って貰えると…「ああいう音を出したい」とか「ああいう風に弾きたい」とか、そういう思いが無いと、たぶん音楽って停滞すると思うので、そういうことを思って欲しいですね。