かわいくて、楽しいもの | 安藤 僚子
そこから、すぐに今の事務所を立ち上げられたんですか?
いや、たぶんその「クリエイター100選」をやっていた頃は、自宅で一人で女がやっているというのは、信用されないというか、利用されてしまうところもあって。まだ自分も若くて、人の前で話すのも上手じゃなかったので、下請け的にデザインだけ提供してしまうといった仕事も多くて、そこのストレスみたいなものも出てきたんですよ。
そのときに、ちょうど建築をやっている仲間に誘われて…やっぱり個人でやっていると、みんな同じような悩みや限界みたいなものがあって、仕事を協業できないかな?という話になって、建築家の男の子3人と、インテリアの私の4人で、場所とスタッフを共同で持って、建築系の設計事務所を本格的にやろうということになりました。
そこで、大きな船をいきなり持つので、今までは自分一人のためにデザインをしていたのが、大きな船を沈ませないように、より多くの人を支えるために、自分のデザインを売っていく…という、そういう経営的なビジョンが、そこでちょっと生まれたというのはありますね。あと、社会的にも大きく見せられたというか、実際大きな仕事を捌けるほどの船の大きさがあったので、ボリュームのある仕事も強気で「出来ます」と宣言できるようになった。
3年ぐらい一緒に仕事をした後に、「デザインムジカ」という自分の事務所を立ち上げました。2009年のころ。で、今のスタイルに。
なるほど、一旦会社を辞めてフリーになって、組織を作って、そこからまた一部独立して、今の事業スタイルになったと。
そうですね。
面白いですね。組織のメンバーとフリーの状況と…今は経営者的な立場ですよね。
自分と、アシスタントが2人居るんですけど、最小単位の規模でやっています。自分が一番得意なのは経営じゃなくて、デザインすることだったり物を作ったりすることだと思っているので。あまり大きくして経営のほうをやってしまうと、そっちが出来なくなっちゃうんですよね。その仲間とやっていたときに勉強したことで、大きく構えると半分~8割ぐらいは経営の仕事になってしまう。
そこで、なるべく小さな規模で抑えておいて、その代わり社外のパートナーというお友達を増やして、大きなプロジェクトが入ったら、その人たちを集めてやるというシステムにしています。プロジェクトベースだけ経営すればいい、というか。今はそのスタイルが今の自分の気分に合っているな、と思っていて。
例えば、今回のYCAMの企画「スポーツタイムマシン」も、「これだったら犬飼さんとやるといいな」という風に…会社を大きくしてしまうと、その中のメンバーでやらなきゃいけないじゃないですか。
なるほど。で、今回山口に来られているこのプロジェクト(スポーツタイムマシン)も、そういったスタイルの延長線上にあるんですか?
うーん、そこが…仕事と趣味の興味というのを分けてなくて。趣味のように仕事をしているような感覚もあるし、仕事のように遊びをやっている感じもあります。ですから、山口のプロジェクトもまたひとつの自分の活動として、あまりそこに線を引いてないんですよね。たぶん「クリエイター100選」の頃から思っていたことがずっと…そこで、やりたいことを3つ挙げていませんでした?
ありました。ひとつが「地方の仕事」で、ひとつは「映像技術を環境に自然に取り入れること」、もうひとつが…
「セットデザイン」
そうそう、「セットデザイン。現実とは離れ、夢のような世界を創ること」。今回の「スポーツタイムマシン」は、まさにここで仰っていることを現実にするようなプロジェクトだなと。
そうなんですよ(笑) 仕事となると、やっぱりクライアントの制約が出てきてしまう、というところがあって。そうじゃないことを仕事に結び付けていくというのも、大切だと思っていて…だから、大きい意味で「スポーツタイムマシン」をYCAMに出してチャレンジすることも、様々な何かに繋がるという風に思えていて。
旅行が好きで、色々田舎に行ったりするんですね。今回も、たまたま山口に友達が居たので、友達が居る山口に遊びに行って、そこに面白い施設があって…そういう、遊びに行く延長線上で何かが派生する、というということがあると思うんですよ。自分の仕事の仕方というのは、結構そういうところから繋がることもあったりして。でも、仕事を取るために遊びに来ている訳ではないんですけど(笑)
以前、和歌山へ行ったときも、友達がそこに赴任していて、そこでおばあちゃんたちが花を編む、ということをやっていて。「面白いから一緒に体験してみて」と言われたのでやってみて、すごく面白かったんですよ。おばあちゃんたちがひとつひとつ手編みをして、リースを作ったりしていて、ものすごく可愛いし、素朴だし、「これは東京の友達にプレゼントしたい」というところから始まって、結婚式のリースにしたいとか、コサージュにしたいとか。友達とおばあちゃんたちを繋げて、少しでも収入になったらと…産業が全然ない場所だったので。
私がそこでやっていることって、母の日にFacebookで友達に「おばあちゃんたちの花を買う人はいませんか?」と呼びかけて、20人ぐらい集まってオーダーする、という、それだけ。おばあちゃんたちがやっていることを紹介して、おばあちゃんたちに還元する…というというようなことも、地方の仕事といえば仕事だし、たいして自分のお金にはならないけど、ちょっとお駄賃もらえるぐらいのものなんですけど(笑) でも、それも仕事といえば仕事だし、遊びといえば遊びだし、そういうことから東京以外のきっかけを作りたいなと思っていたりして、今回もその一環ですね。
[写真・文/OURSELVES 取材協力/山口情報芸術センター(YCAM)]