風のように生きる | 林 祥子
それは、大きな苦しみを抜けた後の開放感を知っているから、そうするのかも知れないですね。
私の人生って、十代~二十代と、結構マイナスだったんですよ。波乱万丈とよく言われてましたけど、苦しいことも多かったんですよ。だけど、苦しいことから得られることのほうが、やっぱり多いんですよね。絶頂のときに見ているものと比べたら、苦しいときに見ているものたちのほうが、人の気持ちだったり自分自身のことだったり、深いところを見れたりするんですよね。
だから、苦しいときじゃないと、人の優しさにも気付かないし、人に対して優しくなれたりもしないし。だから、自分自身が苦しい状態、どちらかというとマイナスな状態に居たほうが、良かったりするのかな…と思ってたんですけどね(笑)
思ってた(笑)
思っていて、その苦しい時期を抜けて…今でも苦しいのが好きなんですけど、何事も楽しまなくちゃ意味がないな、と思って。なので、何でもとりあえず楽しむということを、根本に考えるようになりましたね。
苦しい状況の中にも、何かしら楽しみを。今は、人生の中ではどういう状態ですか?
今の状態は…普通です(笑)
普通(笑) 別に上がっている状態でもない。
最近、ずっと普通なんですよ。でも、歳を取るごとにアップダウンが少なくなってきた、というのもあるんですけど。東京に行くことに関しても、実際不安なんかもあるにはあるんですけど…あれ、まだ行く気がしてないだけかな?(笑)
まだ実感が沸かない。
それをあまり重要視してない、ということかな。
あまり大きなイベントではない。
うん、大きなイベントではないかも知れない。大きなイベントがどんどん無くなってきているような気がする。
ああ、人生の中で。
なんか、凄く不幸じゃないと、大きなイベントにならない気がしてきた(笑) 結婚も、大きなイベントじゃないような気がするんですよ。そんなに結婚って、人生において重要なことではないと思うんですよ。最近の若い人は、負担が増えるのでなかなか結婚しなかったり、実家に居るほうが楽だったりするんですけど…結婚は、したほうがいいと思います(笑)
どっちなんですか(笑)
したほうがいい(笑) 重要なことではないけど、あまりその深く考えずに。
出来るなら経験しておいたほうがいいんじゃない?ぐらいで(笑) 祥子さんにとって、重要なことってなんでしょう?
人生において?うーん・・・インドに行って思ったのが、人生はそこまで価値のあるものじゃない、と思ったんですよ。自分がこうなりたいとか、こうしたいとか…自分の人生を謳歌するぞ!って、そんな風に意気込むものでもない気がして。だから、例えば人生を主婦で終える…「なんで主婦で終わるの?」という人も居れば、「主婦は偉いよね」という人も居て、人それぞれ見方はあると思うんですけど…何をしても、人生に於いてそこまで価値を求めてはいけないんだな、と思って。
だから、自分自身がこうしたいとかああしたいとか、もちろん意欲を持つことは凄く大事なんですけど…たぶん、人生って決まっているような気がするので、流れてくるものに気付けるように、自分から「人生をこうしたい」という風に思わないようにしようと。シンプルに生きたいな、という風に思ったんですよね。あんまり価値とか、重要なもんだとか、考えてないかも知れない。人生において、これをしないといけないという役割というのも、あまり考えないようにしています。
なるほど。何をやりたい、資格を取りたい…というのはひとつの目標ではあるけれど、生きる意味とか目的とか、そこまで重たくはないんですね。そこを目指した結果、全然違う人生を歩んでも、それはそれでそういう流れだったと。
うんうん・・・着地点が無いですね(笑)
いや、いいと思いますよ。なんか、ぽっかりしてますよね。
ぽっかり(笑) なんでしょうね…ぽっかりがいいんだと思うんですよ(笑)
ぽっかりしてるから、だから色々吸収できるし、流れに乗ることも、そこから降りることも出来るし。
ああ、そうそう。でも、結局ぽっかりって「逃げ」なのかな、と思ったりするときもあるんですよ(笑) でも、それもいいんじゃない?とか思っちゃったりして。「これ!」って決めつけちゃうと、じゃあ「違う」と思ったときに、すぐ手放せないし…例えば「写真」と決めちゃったとしたら、他のことをしてみたいなと思ったときでも、もう「写真」と決めちゃったし…となるから。
そんな風に「これ!」って決めている人は、確かに強いと思うんです。でも、それはそれで面白くないな、と。なので、それを決めずに、もっと幅広く見たほうが楽しいんじゃないかな?と思うんですけどね。でもそれは、職人さんとの違いだと思うんですよ。ひとつのことをやり続ける人のことは、すごく尊敬するし、凄いな!と思うんですけど…自分はそうじゃないな、と。
確かに、色々出来るという状況に身を置いているのは、ひとつのことをやり続ける大変さからの「逃げ」かも知れない。でも、職人タイプではないという自覚があるから、そうしているんでしょうね。
友達に言われたのは「真面目って一番つまらないよ」と。「真面目にひとつのことをやり続けることはとても強いけど、仕事にしても遊びにしても、色々なものから吸収して、それが集まってひとつの円になるから、あまりこだわりすぎるのも良くないよ」と。