その瞬間を見逃さない | 原田 章子

原田さんの学びは、体験と知識の両方がセットになっているんですね。

知識、求められますよね。人に説明を求められたりとか。自分はいつか喋れるようになりたいと思っているので、そのためには裏付けがないとダメ。何でもそうですよね。そうしたら人が信用してくれる。市民活動だってそうですよ、ただ「市民活動やってます。」と言ったって、誰も信用してくれない。

でも、ちゃんとやってるという裏付けがあれば、信用してくれるし、お金も出してくれる。そんな感じですよね。そのためにやってた、みたいな…そういった意味で繋がってるんですかね?分からない(笑) ちゃんと信頼できる活動をしていけば世の中は認めてくれる、そういう社会ですよね。好きじゃないんですけど、そういうのは。

そういう世の中の仕組みが出来上がっているから、その中でよりご自分の思うような方向に進んでいくには、体験と知識をワンセットで身に付けて、説得力があるようにならないといけない、と。

はい、ワンセット。変な言い方をすると…私”視覚優位”な人間なんです。だから、知識である教科書を一度読んだくらいでは分からないんですよ(笑) 音声教材よりは、映像教材の方がさらにいい。大学の学習支援日には、迷わず教授のところに直接聞きに行きます。そして、実際に職場で体験することからイメージがつながり分かる。文字写真だけではダメで、そばでだれかが私のレベルに言葉を置き換えてもらって初めてわかる。はは・・これって特性?でもね、時間かかったぶんわかると早くて、ちゃんと話せるようになります。

なるほど、体験の中でも、ヴィジュアル面が大事なんですね。

たぶん、自分の脳みそがそういう認識。そういう認知なんです!

それが、写真や映像に繋がっているんですね。

そう。それも大学の先生が教えてくれました。「君はどう考えても視覚優位じゃないか。」と(笑) 視覚優位の子どもたちに先の見通しをよくするために、視覚支援カードというのを使います。全体のスケジュールや動画説明があれば、より次に何をすればよいのか分かりやすいですね。

例えば”紐を結ぶ”という行為も、動画で一回見せてから本人がやれば、自立して出来るんですよ。教えるんじゃなくて、自分で動画を見る。それ見ながら一人でやってみる。そうすると出来ないことが出来るようになるんですよ。それが支援なんですよね。足りないところは、得意なことで補ってやればいい。…なので、知識と実体験がワンセットというよりは、実体験がないと私が分からないのかも(笑) 実物が見えないと、イメージできないと全然分からない。なら、その優位の方向で、自分の中で情報を回したほうが楽なんで。

原田さんは、放課後等デイサービスでお仕事をしたり、写真を撮ったり、勉強したりしながら、”居場所づくり”という目標に向かって歩んでいる途中…という印象ですね。

そうですね。最終的にどういう形になっているか分からないんですけど、学校とは違う異年齢が集まれる”場所”は作りたいです。
今すごく色々なものがリンクして、協力してくれる人もこれから現れるのかな?という感じになってきたかな、というところですか。まだもうちょっと掛かるけど、でも五年先には何かしておきたいという思いがあるので、とりあえず勉強。世の中に認めてもらうためには、やっぱり学識とか学位とか、ちゃんと勉強したよというものがないと認めてもらえないから、だからやるんです。写真は、人を元気にするためのもの、自分のライフワーク。仕事は仕事。今のデイの仕事をきっちりとやって、それを経験としてちゃんと積み上げて、そこに知識もちゃんと付けて、次のステップに行くぞ、と。

最後に、coom(Creating Our Own Media:YCAMの長期ワークショップシリーズ「meet the artist 2010」から派生した市民活動グループ)の活動についてお伺いしてもいいですか?

そうですね、coomについては自分たちのメディアをつくる…なんか、決められた枠の中でしか出来ないって、みんな思っちゃうじゃないですか。でも、やり方って意外とあるわけで。専門家ではない私たち一市民が「私たちはこう思っているよ」という情報を発信したほうが、同じレベルの人たちには伝わりやすいと思うんですよね。だから、coomの”自分たちのメディアを作る”という活動は、これからも細々と、ゆるゆると続けたいなと思います。それが真実を伝えることになるというか、「嘘じゃないよ、私たちが言ってるんだもん。」と。それはやりたいな、と思いますね。

[写真・文/OURSELVES 取材協力/山口情報芸術センター(YCAM)]


インタビュー中に「(自分の)子供のことをどこまで言うべきなんだろう」と迷われていた原田さん。推敲されたインタビュー原稿の最後に、二人の息子さんへのメッセージが付け加えられていました。ご本人の承諾を得てここに追記します。

二人の息子たちへ

あなたたちに感謝いたします。母さんはいつも二人を怒ってばかりいました。きっと自分のことしか考えていなかったんだね。ごめんなさい。これからは、ずっとあなたたちを愛します。離れても、いつもいつまでも心はあなたちのそばに在ります。母さんを育ててくれて、ありがとう。

母:章子  2013年5月5日