その瞬間を見逃さない | 原田 章子

じゃあ、話も真逆から遡っていきましょうか(笑) 一眼レフカメラを手に取るようになったきっかけは何ですか?

10年前まではデジカメも持っていなかったんです。このYCAMが出来るときに山口情報芸術センター市民委員会の委員公募があり、そこに手を挙げて入りました。そこで活動するにあたって、自分の活動記録を撮らないといけない。一番最初の企画をするときに、「仕方がないから買おうか…」ということで、小さいデジカメを買いました。最初はどこを撮ったらいいか分からなくて、とりあえず撮っておけという感覚。単なる記録でした。

それが10年前ですか。それまでは写真には興味がなかったんですか?

興味がないし、撮られるのも嫌(笑) 親も忙しい人だったので、写真を撮るという行為を、私に対してあまりしなかったんです…だからかな?

積極的に撮るようになったのは?

最初は仕方なく…ですよね。YCAMと市民委員会共同企画、 meets the artist 2004「カメラ・オブスクラプロジェクト」のとき、写真家:佐藤時啓さんをお招きし、1年間コラボレーターさんと共に活動することになったので、その情報集めにと山口市内の路地をまち歩きしながらせっせとデジカメ撮影したのが最初です。一眼レフカメラを買ったのは…3年前、4年前だったかな?(2009年2月)

…そうだ、その前にブログを書き始めたんですね。ブログにアップした写真を見た人から「いい写真だから、人に見せることを考えて撮ってみたら?」と言われたんです。それがきっかけで「しゃびやま(「写真美術愛好会@山口)」というグループからお誘いがあり、山口市菜香亭で2008年8月「山口のここちよい時間」という写真展に参加することになりました。

ブログを見た人に薦められて。

「人に見せることをしないと、技術も伸びないよ。」と。でも、一番最初(の被写体)は、植物、モノ、動かないもの。人を撮っても、遠いところから(笑)。 今はガンガン近づいて撮っちゃってるんですけど…。そのうちに物足りなくなって、一眼を買ったんです。で、一眼を買ってとにかくバシャバシャ撮って、初めて県美展(第63回山口県美術展覧会)に写真で応募したら、それが佳作をいただいたんです。

初めての出品で“佳作”はすごいですね。

はい。それ以前に、子どもと一緒に段ボールで作った作品を出したことはあったんですよ。県美展は何でもOKと聞いていたので。…思いっきり落ちました(笑) それから数年後、一眼を初めて買った年に、ドキドキしながら組写真で応募。それが見事“佳作。「うわっ、佳作だ!」と身体がふるえました。それからですね、一生懸命撮ろうと思うようになったのは。でも、人が撮れるようになったのは、ホント去年(2012年)からですね。それはなぜか?というと、私に写真を撮って欲しい、という人が現れたんですよ。

被写体が現れた。

そう、被写体が現れたんです。NICUのびっこさん(市民活動団体:NICUママネットのびっこ)という団体があるんですけど、小さく生まれた赤ちゃんを育てるお母さんたちとその子どもさんたちの“キラリ”を撮って欲しい…ということで、2012年7月に親子「キラリ」撮影会というのをやったんです。そのときに初めて、お母さんたちを堂々と顔面からバシャバシャと…それが出来るようになってから、次も撮れるようになったんですよ。だから、人に「撮って欲しい」と言われからですね、積極的に撮れるようになったのは。それまでは「えー、撮れないよ。」と思っていたけど、撮れちゃった(笑)

手応えがあったんですね。

はい、手応えがありました。お母さんと子どもさんをガンガン撮って、私が見つけたキラリをプリントしたり、CDにしてお渡ししたんですけど、すごく喜んでもらえました。あれは良い機会でしたね。

その後、去年(2012年10月)、山口市にあるギャラリーナカノで初のギャラリー展をやりました。HEART2012(第6回山口県総合芸術文化祭)の関連企画として、県美展関係の作家さんの作品を会期中展示するというものです。アクリル画:三浦朋子さん(周南市)、油絵:佐々木範子さん(山口市)、写真:原田章子(山口市)で、お母さん三人「m3」展をやりましょう!そんなお話があったのが6月。ちょうど「キラリ撮影会」が決まった後くらいだったかなぁ…。中野さんからお話をいただいて、「えーっ、私みたいな素人でいいんですか?」と言ったら、「県美展でちゃんと賞を取っているんだから大丈夫です!」と背中を押してもらって。正直、嬉しいのと初めてのことで、すごいプレッシャーでした。

それでも私は、やっぱり人を撮りたいと思い、迷わず二人の作家さんを撮ることにしました。その後、それぞれのご自宅に行かせていただき、彼女たちの母として妻としての私生活と、画家としてのアトリエの様子を撮影する。各450枚の写真をスライドショーで見せたのが私の「m3」展の作品になりました。

これまでたくさんの活動記録写真を時間の流れと共に撮っていたので、これが自分の出来ることなんだぁ…と全部が一瞬にリンクしていったんです。で、撮影するとき、もちろん知っているのはその作家さんだけで、ご主人とか子どもさんとか「初めまして」じゃないですか(笑) 。それでも家に入って、ガンガン撮って、お昼ごはんも一緒に食べさせてもらって…。最初はお互いにすごく緊張しているけど、食も共にしちゃうと、だんだん距離が近くなっていくんです。帰る頃には仲良くなっちゃって、逆に子どもたちは撮ってモードになちゃってね。…今も交流があるんですよ。すごく楽しい時間でした。

それがあったから、また人が好きになったというか、人が撮れるようになりましたね。それまでも人は撮っていたんですけど、それは単なる記録として写真を撮っていたんです(苦笑)。そのときには、やや引き気味で…今はもう「はい撮るよ、こっち向いて!」と言って撮るように変わってきましたね。