人を真似る | 岡崎 春代

淳子さんは、最初から美容師を目指していらっしゃったんですか?

淳子さん うわー…全然(笑) 保母さんになりたかったんです。子供が大好きで。逆に美容師は…私には姉が居るんですけど、姉と「美容師は絶対に嫌よね」って言っていました。小さいときから見ていたから。

保育園の頃から、夜の7時8時になっても親は帰ってこない。月曜日しか休みがないから、日曜日はどこにも連れて行ってもらえない。お祭りがあるときでも、親が帰ってくる時間には出店は閉まっているから、いつもお祖母ちゃんが来て、泣く私たちを連れて行ってくれるんだけど、やっぱりお母さんと行きたい、お父さんと行きたい。だから、絶対に嫌だと言っていました。

で、中学生ぐらいのときは「従業員の目があるから…」と、ずっと言われてきました。派手な格好はするな、何々するなと…でも、親は美容関係の仕事、興味を持たないはずがないじゃないですか。女の子二人なのに。それで取っ組み合い。なんで?なんでマニキュアを塗ることがいけないの?なんで眉毛を整えることがいけないの?と。親は「従業員の目があるから大人しくして」と言うけど、子供は言われれば言われるほど反発するし…というので、もう絶対に美容師は嫌だと。

…でも、高校生になって、何かになろうと思ったら、勉強しないといけないということに気付いて(笑) 保母さんでも短大に行かないといけない。ああ、また勉強しなくちゃいけないんだ…と思ったら、私、嫌だなと思って(笑)

勉強は勉強で嫌なんですね(笑)

淳子さん そしたら父が「美容師の免許は取れ。別に使わなくてもいいから。」と。で、高校に通いながら、美容師の通信学校に行って。高校生なのに夏休みもない、冬休みも、春休みもない。土日も全部お店のお手伝い。本当に腹が立ちますよね(笑) 遊びたいのに(笑)

(笑) その頃には、もうお店に入っていらっしゃったんですね。

淳子さん そうそう。入っていました。で、水曜日・木曜日になったら勉強会。次の日、学校なのに!と思いながら。本当にずっとそんな感じだったんですけど、いつの間にか「どうやったらお客さんが付くの?」「どうやったらああいうカラーリングが出来るの?」と、私から父に質問するようになっていました。免許を取って働き出して、保母さんの夢なんてポロっと忘れてしまって。

ポロっと(笑) やっていくうちに、興味が沸いてきたんですか?

淳子さん 興味というよりも…両親はがっくり来るかもしれないけど、好きでやっているというよりは、もう”仕事”。食べないといけないから…本当に古いよね、考え方が(笑)

春代さん この子たちは、私たちのライフスタイルを見ているから、絶対に嫌だろうなというのは、もう分かっていたんですけどね。ただ、何の仕事をしてもいい、好きな仕事をしてもいい、ただ美容師免許だけは…私たちがいつ事故にあったり、病気になったり、お店をたたんだりしても、免許さえ持っていたら、どこかの美容室で下働きからでも入れる。免許を持っていたら2~3万円給料が多い。だから、重くないから免許だけ取ってくれ、それを持っていたらあとは何をしてもいい…と、それだけは二人の娘に、口を酸っぱくして言ってきました。

それは、ご両親の総意として。

春代さん そうです。で、この子が店に入ってきて、手伝うようになってから…まあ本当、可哀想だったと思います。ただ、そのときはまだ従業員も居たから、二代目として認められるには、先代よりも苦労をしないと駄目だ。そうしないと、みんな二代目には付いてこない…というのがすごくあって。だから、掃除をしろ、華美になるな、この子が贅沢するんだったら…その分を従業員にお金で分けてあげる、という。そういう明治の男のような考え方なんですよ。それを徹底的に言われて来ていたから、反発も…

淳子さん あった。

春代さん あったと思います。同じ年頃の従業員が居ても…明らかにこの子の方が上手に出来ているのに、主人は従業員のほうを褒める。でも、17~18歳の子の気持ちというのは、同じぐらいの年齢の子と比べられると、やっぱり…父親としてではなく「先生」として教わっているわけじゃないですか。でも、父親は子供だから娘を褒めないんですよね。だから、この子のほうが大人だな、と思うときもありましたよ(笑)