出来ない理由から探さない | 天野 いつか
ごうまなみさんと『Lip marks』を立ち上げて、4年半経ったころに、ご主人の転勤で山口県へ来られたと。3年半前に山口に引っ越して来られる際に「事務所を辞める」というような話にはなりませんでしたか?
ならなかったですね。社長は「やりたいと思ったらいつでも帰ってくればいいし、そっちでも何かやったらいいじゃん」みたいな感じだったんで。辞める事も考えたけど、私が社長から離れきれなかったんでしょうね。まだまだ学びたい部分は沢山あったし。だから事務所には所属したままでこっちに来ました。山口に来てからも、ちょくちょく長崎に帰って仕事したり、福岡で仕事したり。
長崎に居るときは、レギュラーが何本もあったし、テレビもラジオもやってたから、子育てもままならないというか、ほとんど保育所に任せてました。でも、山口に来たらレギュラーも何もないし、つてがあるわけでもないので、子供の預け先もない。完全に仕事から遠ざかったから、自分のペースで仕事が出来るようになりました。
ちょうどいいタイミングだったかな。自分のスケジュールに追われるストレスはなくなったし、お仕事の依頼が来ても、やりたいと思ったときに「やります」って言って、子供の行事があれば「ごめんなさい」って断れる。
どっちかというと、長崎に居るときは、子供の行事があっても「うーん…じゃあやります」って言っちゃったりしてたけど、山口で子育てに向き合っている中で、仕事と子育てのバランスが取れてきたんじゃないかな。今までちゃんと出来なかったことを、ちゃんとやろうと思って、やれ始めて。バランスも良いし、ストレスもほとんど溜まらないし、自分の好きなスタイルで出来てるっていうのは、ありますよね。うん。
ちょうど良かったのかもしれないですね。
そう、たぶんちょうど良かったんだと思います。そうなってたんでしょうね。「やりすぎ!」「子育てせいよ!」っていう(笑)
もし長崎で二人目のお子さんが生まれていたとしたら…
大変だけど、やってたでしょうね。預け先があるから。仕事も困らないくらいたくさんあったし。ありがたいことに。たぶん仕事優先の日常だったような気がするんですよね。
どうして仕事を優先していたのでしょう?
この仕事って代わりが居ないと思いません?司会者さんはたくさん居るけど、依頼が来る時点でやっぱり厳選されているわけですよね。沢山いる方の中から私を選んでくれて、で「お願いね」って言われたら、「ノー」って言えないんですよね。
喋りの技術はそんなにあるとは思ってないので、人柄だったり、司会の采配っていうのかな?やり方だったりを気に入ってくださって「お願いね」って言われてるから、それを断ったら二度と依頼は来ない、特にフリータレントは。だから責任感もあるし、頼られてるってこともあるし、やり遂げた後の達成感もあって、まあ仕事に向かう姿勢の全部ですよね。大事なことは全部思ってやってた。
で、子育てに関してはいろいろ考え方はあるけれども、やっぱり「お母さんがハッピーじゃないと、子供は絶対ハッピーじゃない」と思うんですよね。だから「子供とずっと向き合ってなきゃ」っていう人も居ますけど、私はそうじゃなくて、ママがキラキラしてて、仕事が終わって迎えにいった後の時間が密に過ごせれば、たとえ関わる時間が短かったとしてもいいんじゃないかな、っていう考えだったから。
仕事はほんとに生活にも直結するし、仕事に対しての考え方っていうのは、今とはちょっと違ったでしょうね。山口に来てガラッと変わったのは「子供のこの瞬間はこの時期しかない」って思うようになった。たぶん私は、すごく仕事をしながら、見れていない成長が沢山あったんだろうなって。でもそれって取り戻せないから、気付いたときから「ここから成長を見ていこう」って考え方になったんですよ。
10月とか特に仕事の依頼が多いんですよね。だから「どう?」って聞かれることもあるんですけど、だいたい子供の文化祭とか運動会とかが入ってて、そっちを優先します。
働き手としての天野いつかさんと、二児の母としての天野いつかさんが居て、今は後者のウェイトが高い?
今はそうかもしれないですね。ママのほうがウェイトが高いと思います。でも、性格が欲張りなんで「あれも絶対したい!」とか思うんで。子育て出来るときにしっかりしといて、いざ仕事が入ったときには動ける態勢は作りたい。断る前に、まず「イエス」の方向で考えたいなって、いつも思っているので。
ただ、今は結果的に子育てのウェイトがちょっと高いですけどね。子供の手が少しずつ離れていって、そのときに自分がやりたい事を出来ればいいなと思ってて。それは喋りかも知れないし、全く別のことかもしれないし。今は「あれもしよう!これもしよう!」っていう欲がなくて。
面白いですね。すごいバリバリしてるときは「次はあれ!」って、すっごい目標があってガンガン行って、それがないと逆に頑張れないとかもあった。今はそんなのないんだけど、楽しいし、充実してる。
その転機はいつ頃か覚えていますか?
やっぱり山口に来てから…でも当初は泣いてました。社長に電話して「仕事したい、子育てだけをしにこっちに来たんじゃない」って、しょっちゅう泣いて、気分も落ちたりして。でも、どれぐらいだろう?生活にも慣れてきて、子供も少しずつ乳児から幼児に変わって、反応が出て面白くなり始めたら、あまりそういう気はなくなった。
山口に来て一年ぐらい経ってからかな?バンッと何か大きい転機があったっていうわけではなく、徐々にシフトしていったみたいな。そういうときって、絶対まわりに人が増えてる。一緒にごはんを食べに行くママが居たり、人づてに出会う誰かが居たりっていう、人との関わりが増えていくから、仕事に重きを置かなくても、繋がりで楽しい毎日。今なんか特にそう感じるんです。
だから、山口に来たのはベストのタイミングで、そして今こうなっているのはベストの状態なんだろうな、って思うんですよね。大変なときもありますけど。